(Leaf Visual Novel Series vol.3) "To Heart"Another side story

メカ耳少女の居る風景

第十八話
『風雲!どすこい元帥』の巻

Written by -->MURAKUMO AMENO HOME PAGE -->SEIRYU-OU KYUUDEN

Original Works "To Heart" Copyright 1997 Leaf/Aquaplus co. allrights reserved


 この小説は、販売・株式会社アクア、企画・制作・リーフのウィンドウズ95用ヴィジ  ュアルノベル・ソフト「ToHeart」を基にした二次創作物であり、作中に使われる名称  は一部を除いてほぼフィクションです。  したがって、ゲームの公式設定・裏設定に準じた物語ではないために、誤解を招く場合  等がありますが、その場合はご容赦願います。  ちなみに、  この小説の中に出てくる少女たちと会いたいと思ってくれた方々には、つつしんで「探  せば会える」とだけ言っておきましょう。


平盛○○年1月25日(月)・天気…曇り

 友人と寝食を共にして過ごす一週間は、予想以上の速さで過ぎて行く。
 東京への帰路につく大河内君を、空港まで送って行った俺とリュースは、その後別段何
 処かへ寄る事も無く家に帰ってきた。
 …確かに友人と離れてしまうのは何となく寂しいが、またリュースと水入らずの時間が
 過ごせるのは正直言って嬉しい。
がちゃり
「ただいま、」
「ただいま帰りましたぁ。」
 俺とリュースの声が家の中に響く。
 返事は…ない。
「もう出かけられたみたいですね。」
「車が無かったからな。どうやら、母さんも一緒に会社に行ったらしい。」
 足元の靴の数を見て呟く。
「ま、学校に行くまでは自由時間って感じだな。…って事は…」
 俺の中に良からぬ考えが浮かぶ。
「?どうしました?ご主人さま。」
「…リュース、頼みがある。」
「は、はい。」
くいっ
 センサーの中心部にささやく。
ぼそぼそぼそ
「えぇーーーっ!」
 顔を真っ赤にして飛びのくリュース。
「あ、あの、そ、そそ、それはぁ、そのぅ…」
「な、いいだろ、リュース。」
 肩を抱き寄せて、頭をこつん、と触れ合わせる。
「いつも可愛いリュースだから、もっともっと可愛い姿も見てみたいんだ…分かって欲し
 いな…」
「え、で、でも、誰かが来られると、ま、まずいのでは…ご、ご両親さんも…」
「まだ2時にもなってないんだから、父さん母さんは帰って来ないぜ…それ以外の人には
 …」
かちゃりっ
 後ろ手に鍵を閉める。
「ご退場願うから、さ…」
「ふ、ふわわ…」
 ぼーっとした表情になりながらうつむくリュースの顔を覗き込んで、意地悪な一言を囁
 いてやる。
「一週間、お前をあんまりかまってやれなかったからさ…その分、今日はたっぷり可愛が
 ってやるよ…」
「はぁ…そ、それは…その…」
 事実、大河内君が家に泊まっている間、俺はリュースと一回も『あーゆーこと』をして
 いない。
 ここだけの話、何回リュースを襲いそうになったか…
 しかし、第三者がこの場に居なくなった今!俺の獣性は鋭い牙をむき始めるのだぁ〜っ!!
「嫌かい?リュース…嫌ならいいけど…」
 そう言いながら、腰のあたりをぐいっと抱き寄せる。
 ただでさえ近かった俺とリュースの顔の距離は、すでに互いの息が届くほど近くなって
 いた。
「嫌、じゃないです…けど、けどけど、とっても、は、は、恥ずかしい…です…」
「じゃあ決まりだ…着替えて、台所に来てくれ。待ってるから、な。」
 上気しきっている頬にキスして、台所へと向かう。
「………」
 その後ろで、リュースは両手を胸の前でもじもじさせながら困惑している。
「あ、あのぅ…」
「?」
 意を決したかのような声に、ふと立ち止まる。
「あの、き、今日は…な、なな、何が…食べたい…です…か?」
 控えめな了承の言葉。
 それを聞いて俺は、おっしゃあぁっ!!と心の中で叫んだ。
「そうだなぁ…リュースの得意なやつで良いよ。」
「は、はい、わかりました…」
 リュースの返事を聞きながら、俺は台所へと入って行った。
ばたん
「ひゃあ…何だか、嬉しくて、恥ずかしくて…ひ、ひさしぶりにオーバーヒートしちゃい
 そうですぅ…」
ぱたぱたぱた
 階段を駆け上がる音とリュースの呟きを聞きながら、俺は握り拳をつくり、嬉し涙を流
 して感動していた。
「うむうむっ!定番ながら、やっぱり『あれ』は男のロマンだ…」
 この時の俺は、ただの一匹の「駄目野郎」だった。

 数刻後

 ぱたぱたぱた
「…ニヤリ」
 邪悪モードに入った俺の耳は、階段を下りて来る音を聞き逃さなかった。
「さーて、どうしよっかなぁ…いきなりってえのも悪かぁないけど、やっぱそのまま料理
 させて後から!って言うのが基本だよなぁ〜」
 邪悪な思考で脳内を満たしていた俺の前に、
 無垢なリュースが俺の希望通りの格好で…
がちゃ
「お待たせしました、ご主人さま…」
「おおっ!待ってたぜリュー…」
 間
「………ぐぁっ!」
どんがらがっしゃーーーん!
 一瞬の間を置いて、俺のコケる音が鳴り響く。
「ど、どうしたんですか?ご主人さまぁ!」
 俺の傍にしゃがむリュースは、マッチョでムキムキな筋肉スーツの上にエプロンを装備
 した…俺の要望とは「ちょっと」違ったものだった。
「ちょっとじゃねぇ!」
 地の文につっこみつつ、俺は四つんばいのままでしばし固まっていた。
 予想以上に精神的ダメージがでかいらしく、体が言うことを聞かない。
「…だ、大丈夫ですか?」
「………」
 顔だけ可愛い、マッチョな裸エプロンのメイドロボが俺の顔を覗きこむ。
「…俺の心配をする前に…何か言う事は無いのか…」
「あ、はい…そうですね。」
「………」
「今日のおかずは、お好み焼きですぅ♪」
がづんっ!
 思わず板張りの床にヘッドバットを叩き付けてしまう。
「そうじゃねぇ…そうじゃねぇだろぅ…その格好は一体何だってんだよ…」
 漢涙が床を叩く。
「え?でもでも…これが『裸エプロン』なんじゃないですか?」
 顔を床につけたまま、滂沱の涙を流しつつ俺は反論する。
「違う…ぜっっってー違う…」
「あう、そんな事言われましても…」
「困ってしまいますね。」
がばっ!
 第三の人物の声に顔を上げると、
「………こんにちは。」
「………」
 しゃがむリュースの頭にアゴをのせ、やぶ睨み目のセレブが俺を見ていた。
「…成程…貴様か、リュースに妙な知識を教え込んだのは…」
「お気に召しましたか?」
「召すか!」
 どっかで聞いたようなやりとりをセレブと展開していると、
ぱたぱたぱた
 誰かが階段を下りる音が聞こえた。
「せれぶさーん、こんどはこの『相撲取りスーツ』なんでどーですかぁ?」
「良いですね、キャンビーさん。それも採用しましょう。」
ぱたぱたぱた
 また一人。
「セレブさん、この兎耳なんて可愛いと思いますけど…」
「ゼロチさんは良い物を見つけましたね…では、キャンビーさんの『相撲取りスーツ』と
 併用してもらいましょう。」
ごごごごごごごごご
 怒りの振動が台所の床を揺らす。
「…お・ま・え・ら…」
「ご主人さま?」
「…何か?」
「なんですかぁー?」
「はい、雨野…さん?」
「人のうちで、なあああぁぁぁにをやっっっとるんじゃあああーーーっ!」



 神妙に台所のテーブルにつく計四名のメイドロボを前に、俺は肘をついてテーブルを指
 先でコツコツと叩いていた。
「…で、何だって大挙して俺の家に来てんだよ…」
「正確には雨野さんのではなく、雨野さんの親御さんが所有する物件ですが。」
「えぇいセレブ!貴様は黙ってろ!」
「はウン」
 言葉と裏腹に、ちっとも哀しそうな表情はしない所がセレブらしい。
「…まあ、予想は出来る…おおかた元帥に『悪戯して来い』とでも言われたんだろうが…」
「ちょっとちがいますぅ。」
「違う?」
 キャンビーの能天気な言葉を、ゼロチが続ける。
「えっとですね、うちのご主人さま…元帥さんが言ったんですよぉ、『雨ちゃんに色々贈
 り物をして来い』って。」
「贈り物って…」
 台所の片隅にうずたかく詰まれた、訳の分からんコスチューム群を見やる。
「これの事か。」
「はい。なんでも今、ご主人さまは色々と忙しくって、家の中の物も処分しなければなら
 ないそうなので…」
「要はていのいい廃品処理って訳か。」
「…あははは…」
 曖昧な笑いを返すゼロチに、俺は大体元帥の意図を理解したような気がした。
 しかし…あの元帥が「忙しい」だって?
 また何かを企んでるのだろうか…
「…まあいい、こっちで処分するから、これは置いてけ。」
「この中には有用なコスチュームも含まれていると聞き及んでいます。どうか吟味の上、
 処分をお願いします。」
「有用って…」
「超ミニメイド服、ネグリジェ、バニースーツ、体操服、スクール水着などが有用だと教
 えられていますが。」
 淡々としたセレブの言葉に、一瞬面食らう。
「………わ、分かった…分かったから帰れ、お前等…」
 メイドロボ軍団がいそいそと帰り支度するのを、俺は頭痛のする頭を抱えながら見やっ
 ていた。
「…?」
 ふと、何かに気がつく。
「ちょっと待て、お前等。」
 台所を出て行こうとするセレブ、キャンビー、ゼロチの三人を呼びとめる。
「じゃあ、リュースに妙な事を教え込んだのは誰の発案だ?」
 俺は、肝心な事を聞いていなかったのだ。
「キャンビーさんです」
 と、セレブ。
「ほへ?ぜろちさんですよぉ?」
 と、キャンビー。
「え!?あ、あの、セレブさんじゃないんですか?」
 と、ゼロチ。
「そうです、私です。」
ぺこり
がたがたがた
 礼をするセレブを除いた全員がひっくりコケる。
「き…き…貴様あああぁぁぁーーーっ!」
「きゃーーーーーーっ!」
 俺の怒声を受けて、セレブをかついだキャンビーとゼロチが脱兎の如く逃げ出した。
どだだだだだだだ………
 爆走するメイドロボ軍団は、玄関を出る直前ぺこり、とこちらに礼をしていった。
「ぜはー、ぜはー…」
 それを見ながら俺は、怒りで荒げた呼吸を落ちつかせていた。
「…あのぅ…ご主人さま?」
「?」
 今まで黙りこくっていたリュースが口を開いた。
「すみません、私…」
「…別にお前が悪いわけじゃないだろ…ま、セレブの性格上仕方ねーよな。」
 苦笑いをしつつ、俺はリュースの横に立った。
「…あのさ、リュース。それより…」
「?」
「頼むから…脱いでくれないか?その筋肉スーツ…」
 しつこくスーツを着こんでいるリュースに、引きつった笑顔で懇願する。
「あ、え…でも…」
ぽーっ
 頬を染めるリュース。
 いつもなら抱きしめてしまうような可愛さなのだが、筋肉スーツの威容によってそんな
 気分が起きないのが哀しい。
「い、今は…ちょっと…」
「何でだ?」
 そう言ってリュースのマッチョな肩に手を置こうとした時、
「………!」
 俺はスーツの隙間から見えるリュースの素肌に衝撃を覚えた。
「ち、ちょっと待ってて下さい、すぐ…着替えますから…」
がたっ
ぱたぱたぱた
 立ち上がり、階段に向かうリュース。
「………」
 それを音も鳴く追う俺。
「そうか…あの下は…そうかあぁ…」
ぱたぱたぱた…ばたん
 俺の部屋に入ったリュース。
 その後を追って、その扉をちょっとだけ開く。
「………」
 部屋の中を覗くその光景は、どこからどう見ても出歯亀だった。

 その後の俺が学んだ事は…蒸れるスーツによって上気したリュースの肌は、抱きしめる
 ととても良い匂いがするって事だ。
 そして、
 俺のその日の昼飯は、結局夕方になってしまった。
 まあ運動後だから、美味しいと言えば美味しかったが…結局本当の『裸エプロン』はま
 た今度ってことが、唯一心残りだった。


               # # #


 どだだだだだだ
 雨野宅の近場のスーパーの駐車場に、爆音を上げて疾走するメイドロボ軍団の姿があっ
 た。
「お、帰って来たようだねぇ〜」
 赤いワゴンRの中で、元帥がほくそ笑む。
「た、只今戻りましたぁ。」
「たっだいまー、ですぅ。」
「任務、完了。」
 三者三様の「ただいま」がドアを開けて入って来た事を確認すると、元帥はエンジンを
 始動させた。
「首尾はど〜だった?」
「はい、概ね完全です。些少雨野さんには精神的ダメージもうけて頂きましたし。」
「うむ!いいよぉ〜…て、あれれ?」
 元帥は、セレブが後部座席のドアを開けたまま、乗りこんでいない事に気がついた。
「…ご主人さま、セレブさんは…」
 助手席のゼロチが、元帥に促す。
「あ、そだったね…じゃ、事故らず帰るんだよ〜」
「…はい。」
 微かに微笑むセレブの表情に満足しつつ、元帥はセレブが閉じる後部ドアの音を聞いて
 ギアを入れた。
「またです、せれぶさーん」
「では…またお会いしましょう。セレブさん。」
 にこやかに別れを告げる姉妹を乗せて、発進するワゴンR。
 それを見送ってから、セレブは駐車場の端に止めてある黒のセダンに向かって歩き出し
 た。



                              第十八話 END



次回予告・キャンビー
 やりましたぁ!よこくにはつとうじょうですぅ!!
 どんどんどんぱふーぱふー
 でも、じかいは、わたしのはなしじゃないんですよぉ。
 どんどんどんぱふーぱふー
 じかいは、せれぶさんのはなしですぅ。
 どんどんどんぱふーぱふー
 次回、メカ耳少女の居る風景『歩くは地、導くは空。』
 らんっららららんっらぁ〜ん!ほっとけ〜きは、ばっばーんっ!で、ぼよよーんっ!!



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