(Leaf Visual Novel Series vol.3) "To Heart"Another side story

メカ耳少女の居る風景

第十七話
『集合!元帥メイドロボ軍団』の巻

Written by -->MURAKUMO AMENO HOME PAGE -->SEIRYU-OU KYUUDEN

Original Works "To Heart" Copyright 1997 Leaf/Aquaplus co. allrights reserved


 この小説は、販売・株式会社アクア、企画・制作・リーフのウィンドウズ95用ヴィジ  ュアルノベル・ソフト「ToHeart」を基にした二次創作物であり、作中に使われる名称  は一部を除いてほぼフィクションです。  したがって、ゲームの公式設定・裏設定に準じた物語ではないために、誤解を招く場合  等がありますが、その場合はご容赦願います。  ちなみに、  この小説の中に出てくる少女たちと会いたいと思ってくれた方々には、つつしんで「探  せば会える」とだけ言っておきましょう。


平盛○○年1月19日(火)・天気・・・晴れ

 旭川空港、到着ゲート前。
「・・・11時、か・・・」
 東京からの友人を出迎えるため、俺はリュースと一緒に早めに家を出て、ショッピング
 をした後に空港へと向かった。
「大河内さんの到着は、たしか・・・」
「12時ちょうどだ。だから・・・暇が1時間近くあるって事だな。」
 まぁ、心配性のリュースの進言をうけたにしても、来るのはちょーっと早すぎたらしい。
「やっぱり、早すぎましたねぇ。」
 ばつが悪そうに俺を見上げるリュース。
 その頭に、ぽん、と手を置く。
「・・・まぁいいさ、こんな所でのデートも悪くないしな。」
「そ、そうですか?はうぅ・・・」
 デートと言う言葉に顔を赤らめる姿は、やはり凶悪に可愛い。
「ばっか・・・こんな所で照れるなよ・・・」
「はわぁ、でもでも・・・」
「お、落ち着け・・・屋上行って、景色でも見てこようぜ。」
 そう言って肩を抱きかけた俺は、
ざわざわざわ
「・・・人、多いな・・・」
 周囲を見回した後、その手を引っ込めてしまった。
・・・じーっ
「うっ」
 リュースは、そんな俺の様子をしっかりと見ていたらしい。
 思わず歩が止まる。
「・・・・・・」
じーーっ
 何かを期待するような目で俺を見つめ続けるリュース。
「・・・・・・」
じーーーっ
じわっ
 うっすらとその瞳に涙がにじんで、
「・・・・・・」
じーーーーっ
うるっ・・・
 口がへの字に曲がり始める。
「ま、まてよリュース・・・そんな顔しなくっても、いいだろ・・・」
「・・・ご主人さまぁ・・・」
じーーーーーっ
うるうる
「俺にどうしろっていうんだ!」
「い、いえ・・・別に・・・どうって訳では・・・」
 言いながら、しゅん、と視線を下げる。
「・・・分かったよ・・・」
すっ
「え?」
 両肩に手を置いて、とまどうリュースの唇を奪う。
「!」
「・・・くだらん事にこだわったバツだ・・・さぁ!い、行くぞ!!」
 周囲の目と、惚けたようなリュースの視線から逃げるように、足早にエスカレーターへ
 向かう。
ぽーーーっ
「な、何やってんだよ!早く来い!!」
「え、は、はい!」
 弾けたように駆け出すリュースを待って、俺はエスカレーターの一段を踏み出した。
「ったく・・・卑怯な・・・」
「?・・・怒ってますか?」
 追いついたリュースの、申し分けなさそうな表情。
「・・・ちょっとな。」
「はうぅ、すみません。」
「そう思うんだったら・・・今度から思った事ははっきり言え!!」
「はい・・・え?」
 俺の顔を覗き込むな!
 理性が・・・吹っ飛ぶだろうが・・・
「・・・俺、不器用だからな・・・はっきり言ってくれないと、勇気も出せないんだ・・・」
きゅっ
 肩を抱いて、言葉を続ける。
「ご、ご主人さま・・・」
 嬉しそうな満面の笑顔に、思わず顔を背けてしまう。
「お前の泣き顔を見るのは・・・嫌だし・・・な。」
「・・・はい、出来るだけ、はっきり言うようにします。」
「遠慮は無し、だぞ。」
「はい。」
 リュースが俺の背中に手を回した時、二階へのエスカレーターは途絶えた。


               # # #


 「うわぁーっ!広いですぅー!」
 手すりから身を乗り出す勢いで、リュースは景色を眺めている。
 滑走路と周囲の山々を見渡せる展望台は、床に薄く積もった雪によって美しい白銀の舞
 台と化していた。
「この寒さだからな・・・他の人はいないか。」
「うわーっ!うわーっ!」
 まさか本当に身を乗り出さんだろうな、こいつ。
「周りが良く見えますねぇ。・・・こうやって見ると、あの立派な山々の中に・・・」
「?」
 うっとりとした目で果てにある山を見つめる。
「MATやTACやUGMやGUTSやティターンズの基地なんかが入ってそうですねぇ
 ・・・」
「・・・そ、そうかもな・・・」
「あの山肌が割れて、サイコガンダムがぐわーっ!って出てきて、」
 キリマンジャロかい。
「そしてフォウの暴走を止めるため、新マンがオキシジェンデストロイヤーを・・・」
「・・・想像したくない・・・」
 やな夢想家だな、こいつ・・・
「ま、まぁ、景色を良く見ておいた方がいいのは事実だな。この景色も、もう少しで見ら
 れなくなるんだから・・・」
「あ・・・そう、ですね・・・」
さふっ
 雪の残る手すりに顎を乗せる。
 ・・・なんか、くつろいでる犬みたいだ。
「三ヶ月後には、東京の空の下って訳だ。」
「そうですね・・・ご主人さまの夢は・・・東京でしか叶わないですからね。」
「まぁ、完全にそうって訳じゃないけど・・・俺に、出来るだろうか。」
 横に立って、一緒に彼方を見つめる。
「人を感動させるような劇場アニメを作るなんて・・・大それた夢だからな・・・」
「・・・・・・」
すっ
 いつの間にか、俺の右に寄り添うリュース・・・その表情は、不思議なほど大人びていた。
「大丈夫ですよ・・・ご主人さまなら・・・私の夢を叶えてくれたんですから・・・」
 その肩に右手を乗せながらも、俺の視線は彼方の青空を貫いていた。
「『素敵なご主人さまと一緒に暮らす』か・・・まだだよ、リュース」
「え?」
「俺はまだまだ、『素敵なご主人さま』なんかじゃない・・・だから、」
ぎりっ
 左手が無意識に拳を作る。
「夢を叶え、立派に生きる!そして、たくましい男になって・・・何があっても、お前を守
 れるような『ご主人さま』になるぜ!!」
「そんな、わ、私のために・・・」
「ん?嫌なのか?」
「そ、そう言う訳では・・・」
「・・・だったら、」
 リュースの戸惑う顔を、正面から見据える。
 その微笑みは、俺が今まで見つめていた北海道の冬空以上に澄んでいた。
「どこまでやれるか分からないけど・・・俺と一緒に・・・『生きて』くれるか?」
「そ、そんな・・・そんなの・・・」
 顔を伏せながらも、けなげに視線は俺を向いている。
「当たり前、ですよぉ・・・」
「ありがと。愛してるよ、リュース・・・誰よりも、何よりも・・・」
 分不相応な夢しかない俺は、今まで自分をちっぽけな存在だと思っていた。
 そんな俺を強くしてくれたのは・・・全身全霊をかけて俺を信じてくれる、この少女のお
 かげだ。
 ・・・不思議だ。
 夢を追う力を与えてくれたこの娘のためなら、俺は・・・夢も、命すら捨ててかまわない
 と思っている。
「私も・・・一番、大好きですぅ・・・ご主人さま・・・」
「はっきり言うなぁ。」
「・・・はい、言いたい事ははっきり言えって・・・さっき、ご主人さまが・・・」
「口答えするのかよ。ったく、そんな悪い口は・・・」
「あ・・・」
 キスへの常套手段なセリフをはいた後は、
「・・・」
「・・・」
 互いの無言が、俺達の唇を引き合わせる。
 ゆっくりまぶたを閉じた時・・・
「ちゅーですかぁ?」
「・・・!」
「・・・!?」
 突然かけられた明るい声に、思わず目を開けてしまう。
 ちょうどあと1cmぐらいだったのに・・・
「・・・うっ・・・」
「・・・あ・・・」
かーーーっ
 見詰め合ったまま、互いの顔が赤くなるのを黙って見ている俺達。
「あれ?ちゅーしないんですかぁ?」
「誰のせいで・・・できなかったと思ってるんじゃあ!」
 照れ隠しと怒りを込めて、後ろを振り返る。
 すると・・・
「えぇ!わたしのせいなんですかぁ!?」
「・・・キ、キャンビー!!」
 俺の後ろには、リュースと良く似た少女が立っていた。
 紫の髪、
 緑の瞳、
 そして・・・
「はうぅ、それはわるいことをしましたぁ。ごめんなさい。」
「いや、それはいいんだが・・・」
 震える指で、キャンビーを指差す。
「その・・・着ぐるみは・・・何だ・・・」
 彼女の体全体は、どこかで見たような鮮やかな緑色に覆われていた。
「はい、『がちゃぴん』さんですぅ。」
「誰がその着ぐるみの名前を・・・ま、まさか!!」
ばっ
 周囲を大急ぎで見回す。
 滑走路と周囲の山々を見渡せる、雪が薄く積もった展望台・・・その美しい白銀の舞台に
 ・・・
「居たか・・・」
 手すりに手をやり上川連峰の山々を見つめ続ける、孤独な『ムック』の赤い後ろ姿があ
 った。
 後ろからは顔を見る事はできないが、キャンビーのガチャピンのように顔の部分を大き
 くくりぬいてあるのだろう、白い吐息が肩越しに見え隠れしている。
ひゅううぅぅ・・・
くるくるくるくる
 頭頂部のプロペラが寂しげに回る。
「・・・ゼロチか?」
「お察しの通りですぅ・・・」
 どうやら、この姉妹機たちの中で一番羞恥心があるのはゼロチらしい。
「わぁ、このガチャピンさん、可愛いですね。」
「そうですかぁ?りゅーすさん、ありがとうございます。」
「・・・お前ら、黄昏ムックに対する思いやりはないのか。」
 一粒の涙が、雪の残る手すりの上に落ちる。
「いいんですよ、私・・・どうせ元帥メイドの零号機ですから・・・」
 気のせいか、段々声のトーンが落ちている。
「このまま某零号機のように使い捨てられるのかもしれませんねぇ・・・」
「・・・冬空を見上げたまま、愉快な格好で絶望的なセリフを吐くな。」
 ポンキッキーズby太宰治な雰囲気。
「がいけんのあかるさと、ないめんのくらさがせめぎあってますぅ」
「外面似菩薩、内心如夜叉ってやつですね。」
「呑気に解説を加えるぐらいなら少しはフォローしてやれよお前ら!!貴様らの血は何色だ
 !」
「おいるのちゃいろでぇす。」
 キャンビー。
「グリスの黄色でぇす。」
 ゼロチ。
「南春夫でございます。」
ぶぎゅるっ!
「あうぅっ!!」
 ガチャピンとムックに両側から掌底を食らってのたうちまわるリュース。
「あうっ!あうぅっ!!」
「お、おい・・・大丈夫かリュース。」
ぷーぴーぷー・・・
「良心回路が、良心回路がぁーっ!」
「・・・ほっといても大丈夫だな」
ぷーぴーぷー・・・ぷぴぷー
 のたうちまわるリュースに向かって、黒いステッキを口元にやりながら笛の音を奏でる
 キャンビー。
 ボケの波状攻撃に突っ込む気力を無くした俺は、ゼロチに当然ともいえる質問を投げか
 けた。
「ここまで面子がそろってるって事は・・・セレブも居るな。」
「あ、セレブさんでしたら・・・あれを見てください。」
 すっかり明るさを取り戻したゼロチの指差したものを見て、俺は驚愕した。
「・・・そうか、分かった。」
 おもむろにゼロチの指し示した有料双眼鏡に近づき、財布から百円玉を取りだそうとす
 る。
「『セレブを探せ』って奴か・・・たく、どこに潜んでやがるんだか・・・」
「ここです」
「うわぁっ!」
 思わぬ至近距離から声がしたので、俺は思わず飛びのいてしまった。
「・・・妙に台座が大きい双眼鏡だなとは思ったが・・・そこかぁ!」
「覗くなら早くしろ。覗かないなら、帰れ。」
 直径50cm、縦1mはあろうかと言う円筒形の双眼鏡の台から聞こえて来る声は、俺
 に対して「早よどけ」と告げていた。
「・・・・・・」
「戦って、死ね。」
「やかましい!」
 俺はどこぞのスプ○ガンか。
「・・・それはさておき・・・早くどいて下さい。後ろがつかえています。」
「え?後ろ?」
 創外な答えに振り向くと、
「早く早くぅ〜」
ぱたぱたぱた
 地団太を踏む元帥が居た。

 間

 何しに来た!
 何やってる!
 何見たがってる!
 何メイドロボ集めてんだ!
 奴等に何て格好させてんだ!
「あぁ〜!!どれに焦点を置いて驚いていいのかすら分からーーーんっ!!」
 頭の中を乱れ飛ぶ言葉の渦によって、完全に狂乱状態に陥った俺にセレブの冷たい一言
 がかけられる。
「問題無い。」
「大有りじゃっ!!」
「ねぇ〜おいちゃん〜僕にも双眼鏡見してよぅ〜」
ぱたぱたぱた
 相変わらずのマイペースを武器に、ひたすら地団太を踏み続ける元帥。
「あのなぁ・・・じゃあ、俺の質問に答えたらゆずってあげましょう。」
「え〜?何々?」
 重要項目を抜き出して、怒りに任せて元帥に叩き付ける。
「ここに居る理由と彼女らのあの格好だ!」
ぷぴぷーぴぷー・・・
 ガチャピンの奏でる笛の音に操られ、リュースがムックに襲いかかる。
「あぁっ、手が、手が勝手にぃ・・・」
「きゃー!助けてー!」
「ふふふ、だーくにうまれしものは、だーくにかえるですぅ〜」
 ・・・楽しそうだな。
「今日ね〜東京からとあるメイドロボが帰って来るのさっ。んで、どうせだったら皆で出
 迎えてやろうと思ってね〜」
「・・・それであの格好な訳ですか。」
「うん。目立つ格好の方が、俺達を見つけやすいだろうからねぇ〜」
 限度があるだろうが、限度が。
「それより早く〜見して見して〜」
「・・・はい、どうぞ。」
「元帥さんは特別に三分百円の所を、三十分で八百円にして差し上げます。」
「ほほう、なんと二割ほどお得だね〜」
「・・・三十分も双眼鏡を覗く気か・・・」
 時間の話をしていて、ふと思い出す。
「おい、リュース。そろそろ時間じゃ・・・」
 そう言って、リュース達の方を見ると、
「あ、はい、そうですね。それではそろそろ下に・・・」
「その前にその頭にかけたサングラスと背負ってるギターを外せ!!」
 危うくリュースがキカイダー・ジローにされかけていた。
「えぇっ!後GジャンとGパンとセーターがあるのに。」
「そうですよ、そしたらかんぺきなきかいだーに・・・」
 ムックとガチャピンが不服そうな声を上げる。
「するなっ!!」
 俺の怒声とほぼ同時に、眼下に東京からの旅客機が滑り込んでくる。
「お、来たか・・・行くぞ、リュース。」
「あ、はい。それではお姉さん方、セレブさん、元帥さん、又会いましょう。」
ぺこり、ぺこり、
 数回、皆にお辞儀をする。
「はい、又会いましょうね。」
 ゼロチ。
「またあいましょう。」
 キャンビー。
「・・・さよなら。」
 双眼鏡の台。
「おぉ〜!可愛いむしゅめが飛行機から降りてきてるよ〜」
 双眼鏡を覗くつるぺた野郎。
「元帥、あんたもそろそろ下に行かないと・・・」
「おぉっ!あの子なんかいいねぇ〜」
「・・・・・・」
 ・・・ほっとこう・・・
「じゃあ又な、みんな。」
「ばいばいですぅ。」
 下へと続く階段を下りる直前、俺とリュースは元帥たちに手を振った。それに応えてガ
 チャピンとムックは手を振り返し、双眼鏡の台は左右に揺れている。
がたがたがた
「・・・あれは、セレブなりの別れの挨拶か・・・」
「だと思います。」
がたがたがた
「おやおやおや〜地震かな〜?」
 しつこく双眼鏡を覗く元帥を後に、俺達は到着ゲートへと向かった


               # # #


 再び到着ゲート前。
「や、雨野君。」
 俺達がゲートに近づくと、人のよさそうな、細身の青年がいた。
「おーこっちゃん。待たせたかい?」
「いやいや、なんもなんも。」
 大河内君は俺が東京に居た時からの友人で、今回は仕事の休みを利用してスキー旅行っ
 て訳だ。
 重そうな手荷物とスキーの入った細長いバックを抱えながら笑う大河内君は、俺の隣に
 たたずむリュースを興味深げに見始めた。
「へぇ〜本当にメイドロボだね。手に入れたって聞いた時には正直驚いたけど、この容姿
 なら数百万の価値はあるな。」
 そう言って大河内君が
ぽんぽん
 と頭を軽く叩くと、
「はわぁ、あ、あの、ありがとうございますぅ・・・」
 リュースは顔を真っ赤にして、照れながらお礼を言った。
「!?・・・雨野君、今この子、なんつった?」
 リュースの反応に驚きながら俺に答えを求める大河内君を、俺はにやにやと笑いながら
 見ていた。
 なぜなら、
 その反応は、俺が元帥の家でゼロチに会った時の反応とまったく一緒だからだ。
「驚いただろう、実はこいつ・・・」
 と言って優越感に浸りながら説明を行おうとした時、
ざわざわざわざわ・・・
 二階から、人々のざわめく声が聞こえ始めた。
「・・・・・・」
 原因は、分かってる。
 あいつらだ。
 あいつらが下りてきたんだ。
 助けて母さん。
 来てよパーマン。
 来るな元帥。
「・・・おーこっちゃん、話は後だ!!」
 急いで彼の荷物を抱える。
「急げ!急いでこの場を離れるんだ!!」
だっ
 言うが早いか、俺は本能的な危険を察知した時の獣のように駆け出していた。
「あ、雨野君?」
「はうっ!?ご、ご主人さま、待って下さぁい!」
 俺の後を追って二人が駆け出したのを確認してから、俺は自動ドアを通り、一直線に駐
 車場へと向かって行った。
 ふと、
 視界の端に見覚えのある車を見かける。
「あれ?あれは・・・」
 歩を止めて、その車を見る。
 そこにたたずむ傷のついた黒のセダン車は、確かにどこかで見た事のあるものだった。
「・・・元帥は赤のワゴンRだしなぁ・・・誰の車だっけ、これ・・・」
 記憶の糸を手繰る俺の元に、二人が追いつく。
「おや?どした?」
「どうしたんですか?」
 ・・・駄目だ。分からん。
「いや・・・何でもない。知り合いの車かな、と思ったんでね。」
 ふと空港を見やると、到着ロビーに怪しげな色の物体が見える。
 緑と・・・赤。
「・・・危なかったな・・・」
 ほっと胸をなで下ろす。
「?何だか良く分からないけど・・・まぁ、雨野君には車の中でみっちり説明してもらおう
 かな、なーんて。」
「あぁ、分かってるよ。ゆっくり話してやるから。」
「ご主人さま、スキーの方持ちますう。」
「おう、頼むぜ。」
 そんな会話をしながら、俺達は車の置かれている場所へと向かって行った。その道中、
 俺は大河内君と談笑するリュースを見ながら考えていた。
「さて・・・おーこっちゃんにリュースの事説明しないとな・・・でも、」
ちらっ
 そこには、リュースの可愛い笑顔。
「説明とか言って・・・結局、のろけちまいそうだな・・・」


               # # #


 ざわざわざわ
 周囲を遠巻きの人壁に囲まれながら、元帥とガチャピンとムックと有料双眼鏡は到着ロ
 ビーに立っていた。
 そんな異様な軍団に、すたすたと近づく剛の者が居る。
 到着ゲートから現れたその少女は、淡い水色の髪と赤い瞳を持っていた。
「あ、こっちですぅー!!」
「ゼリオさーん!」
 ガチャピンとムックが手を振る。
がたがたがた
 身を揺らす有料双眼鏡。
「・・・御待たせしました。」
「おぉ!やぁっと来たね〜」
「申し訳ありません。飛行機に乗っている最中はほとんどの機能を停止させていたもので
 ・・・ところで、元帥さん。」
 ガチャピン達を見回したゼリオが、確認するように問う。
「私は・・・」
「?」
「私は、な、何を着れば・・・いいのでしょうか?」
 悲痛な覚悟を感じさせるその言葉の裏には、「許して下さい」と言う懇願の色があった。
「う〜む・・・」
 言葉に困る元帥と、水をうったように静かになる周囲を見回して、有料双眼鏡はぼそり
 と呟いた。
「・・・ばかばっか。」
 その声(前回参照)では洒落にならん。



                              第十七話 END



次回予告・雨野
 友人も帰って、久しぶりに二人っきりになった俺とリュースは、東京に行く用意もそっ
 ちのけでラブラブ生活をエンジョイしていた…って、言ってて恥ずかしいな、こりゃ。
 …それはそうと、さっきからなーんか妙な視線を感じるんだが…はて?
 次回、メカ耳少女の居る風景『メカ耳ライフを楽しもう!』
 さーてリュース、何して遊ぶ?あ、「格闘する」って選択肢は無しな。


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をエンジョイしていた…って、言ってて恥ずかしいな、こりゃ。  …それはそうと、さっきからなーんか妙な視線を感じるんだが…はて?  次回、メカ耳少女の居る風景『メカ耳ライフを楽しもう!』  さーてリュース、何して遊ぶ?あ、「格闘する」って選択肢は無しな。
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