(Leaf Visual Novel Series vol.3) "To Heart"Another side story

メカ耳少女の居る風景

第十話
『元帥ちゃん電話』の巻

Written by -->MURAKUMO AMENO HOME PAGE -->SEIRYU-OU KYUUDEN

Original Works "To Heart" Copyright 1997 Leaf/Aquaplus co. allrights reserved


 この小説は、販売・株式会社アクア、企画・制作・リーフのウィンドウズ95用ヴィジ  ュアルノベル・ソフト「ToHeart」を基にした二次創作物であり、作中に使われる名称  は一部を除いてほぼフィクションです。  したがって、ゲームの公式設定・裏設定に準じた物語ではないために、誤解を招く場合  等がありますが、その場合はご容赦願います。  ちなみに、  この小説の中に出てくる少女たちと会いたいと思ってくれた方々には、つつしんで「探  せば会える」とだけ言っておきましょう。


平盛○○年12月22日(火)・天気・・・雪のち晴れ

 推薦の入試が終わって一週間ちょい。
「・・・・・・」
 俺はといえば、何をするでもなくベッドの上で降りつづける雪を眺めていた。
 本来ならば、落ちた場合を考えて他の大学を受ける準備を進めなければいけないのだが
 ・・・未だ結果も出ていないうちにそれを始めてしまうのは、逆に不安な気分をふくらま
 せてしまいそうで嫌だった。
「滑り止めの試験は2月末と3月中旬だからなぁ・・・」
 中途半端に時間があるのは一番始末に悪い。
「・・・やれやれ・・・」
 結局、結果待ちの不安にやられているだけなのだ。
 安心できる話し相手のリュースが、こんな時に限って母親に拉致されていない、と言う
 のも俺のブルーの原因の一つだ。
「・・・今ごろ、慣れない手つきで四苦八苦してるだろうな、あいつ・・・」
 母の通う花道教室へ連れられて行ったリュースは、とまどいながらも何が起こるのか楽
 しみ、と言った感じに目を輝かせていた。
 送ってゆく車の中で、話も盛り上がっていたし・・・
「うまくやってるだろう、うん。」
 とか一人ごちた数秒後には、
「・・・はぁ・・・」
 もう不安にため息をついている自分に気付く。
 リュースや友達と会っている時はいいが、一人になったとたんに不安がふきだしてくる。
 不安・・・?
 不安・・・
 ふと、頭の中によみがえる記憶。

 立ち尽くす、水色の髪の少女

「・・・そう言えば、あの時の・・・あの子・・・」


               # # #


平盛○○年12月13日(日)午後1時48分・天気・・・曇りのち晴れ

 「・・・ここが文京区か・・・」
 試験も無事終わり、大学の周辺を適当に散策していた俺は、着慣れないスーツにうっと
 うしさを感じながらも試験終了の爽快感を味わっていた。
「適当にうろついて、適当に歩き続けりゃどこかの駅かバス停に着くだろう・・・」
 そう考え、大学前のバス停を無視した後は大迷走の始まりだ。
 入り組んだ道路。
 細い路地。
 一つとして直角に曲がっていないまがり角。
 そして天にも届かんとする建造物の群れ・・・一つ一つをとれば北海道にもある普通の町
 並みなはずなのに、その全てが所せましと肩をならべている様は、やはりここが別世界
 である事を実感させる。
「曇りで、空が見えんな。」
 ただでさえ高い建造物に覆われている東京の空は、より一層無愛想な表情をしていた。
 試験終了の爽快感の中に潜む、不安な気持ちを具現化したかのような空だ。
「こんな空を見上げる物好きなんて、俺ぐらいだろうな・・・」
 その感慨がつぶやきとなってあらわれた時。
「・・・何!?」
 俺は自分の精神状態を疑った。
 何か、ありえないものまで見える病気にでもなってしまったのかと思った。
 それは・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 数刻前の俺と同じように、空を見上げる者が居たからだ。
 マンションの林の中にある小さな公園で、無言で空を見上げ続ける少女。
 俺は、幻覚を見ているのか・・・そう思うほど、場違いで、かつ、現実から遊離した光景
 だったのだ。
「・・・・・・」
 無人の公園に踏み込んだ時、初めてそれが幻覚ではない事に気付いた俺は、少女の風体
 を見てもう一度驚きを露にした。
「『セリオ』!?」
 HM−13型・セリオ。
 マルチと違って、その細身のシャーシに現時点で最高水準の機能を詰め込んだ高級機。
 よほどの事が無い限り一般の人間の目には触れないと言われている、最新型の最高級メ
 イドロボだ。
 だが、俺の目の前に居るセリオは、カタログで見たセリオと違っていた。
「髪が・・・青い。」
 長い髪はカタログで見たような亜麻色ではなく、はかなさを感じさせるような薄い青に
 染まっていた。
「・・・・・・」
 俺の言葉に反応したのか、その少女はゆっくりと俺を見据える。
「・・・あ!」
 燃えるように紅い瞳で。
「ゼ・・・」
 強烈な既視感(デジャヴ)が、俺の口から言葉となって紡がれる。
「ゼロチ・・・なのか?」
「そうです。」
「えぇっ!」
「うそです。」
ひゅおおおぉぉぉ
 北海道生まれの俺にも、この風は寒い。
「・・・う・・・」
「『う』?」
「うっそ・・・ぴょーん・・・」
ひゅおおおぉぉぉ
 姉さん、大都会の風は、身を切られるほど寒く・・・
「・・・結局、誰だ、お前は。」
「ワ〜タ〜シ〜ハ」
 喉にチョップをしながら話す少女。
「バ〜ル〜タ〜ン〜セ〜イ〜カ〜ラ〜」
「宇宙忍者か。」
「うそです。」
 素に戻るな。
「・・・う・・・」
「同じネタは禁止だ。」
「うそだりゅん。」
「・・・・・・」
 さっきの方がましだったような・・・
「で、結局、君は一体誰だ?」
「私は・・・」
 一瞬、言葉に詰まる。
「・・・HM−13・セリオです。」
「・・・・・・」
 プロテクトがかかっているのだろうか、それとも大幅なカスタマイズが施されているの
 か、それとも・・・
 何にせよ、今の言葉が彼女の全てとは思えない。
「只今、サテライトナビゲーションでメンテナンス施設へと向かっていたのですが・・・都
 合により衛星信号の認識が困難となっていましたので、回線切り替えの待機を行ってい
 た所です。」
 立て板に水の模範のように、整然とした言葉が連なる。
「へぇ・・・サテライトにも不調があるんだ。」
「はい。ちょうど30秒前、衛星が通信困難な位置に入りましたので、回線の引継ぎを行
 っているのですが・・・」
「それに時間がかかっている・・・って事か?」
「はい。」
 そう言ってもう一度空を仰ぐ。
 その真剣なまなざしに俺は、メイドロボらしからぬ意志を感じた。
「・・・大丈夫か?」
「はい、待機時間としては通常レベルです・・・が・・・」
「?」
 信じられない一言。

「少し・・・不安です。」

 リュースと会うまでは、メイドロボがそんな言葉を話すとは思わなかった・・・けど、空
 を見上げつつ唇を結ぶその姿は、俺がさっき感じた「意志」の具現そのものだった。
 だから・・・
「・・・心配するなよ。」
 リュースにかけるような言葉が、思わず口をついたのは・・・彼女にも意志を感じたから
 だろう。
「?」
 瞳が俺を捕らえる。
「何とかなるって、君も・・・」
 もう一度空を仰ぐ俺。
「俺も、な・・・」
 俺を見ていた少女は、再び視線を空へ向けた。
「・・・待ってくれているんです。」
「誰が?」
「ご主人さまが・・・私が、メンテナンスから帰ってくるのを・・・」
「・・・そうか・・・」
 リュースも、俺を待っててくれるんだろう。
 実直で不器用なあいつだから。
「早く、帰れるといいな・・・」
「はい・・・早く帰って・・・」
「うん?」
「抱きしめて・・・欲しいです・・・」
 分かる。
 少女の頬が、鮮やかな紅に染まっている事。
 俺の心が、あいつを求めている事。
 俺達が、互いのパートナーと同じ気持ちでここに居る事が・・・分かる。
さあっ
キュウゥーーーン・・・
 陽光が厚い雲間を切り裂くとともに、少女から駆動音が聞こえてきた。
「・・・戻ったみたいだな。」
「はい。」
 再び無表情に戻った少女は、俺を見るなり頭を下げた。
「ありがとうございました。」
「・・・俺は、何もしてないぞ。」
「・・・いえ、」
 顔を上げた時、
「どうしても言いたくて・・・」
 微かな微笑みが仮面の下からこぼれ落ちている事に・・・彼女は、気付いているのだろう
 か。
「・・・じゃあな。」
「はい、さようなら。」
 そう言って俺達は公園から出て、歩き出した。
 全く逆の方向。
「・・・電話、探すか・・・」


               # # #


 「結局、あの子が何者だったのか・・・分からずじまいだったけど・・・」
 ぼんやりと感じている事は、あの髪の色と瞳の色、そして表情がある事を考えると・・・
 あの子も『元帥メイド』なんじゃないかと思う。
「・・・聞いてみよ。」
 どうせまともに聞いたって、答えちゃくれないだろうが・・・
 そう思って電話に手を伸ばしかけた時、
トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルルルル・・・
 俺の意図を遮るかのように、電話が鳴り始めた。
 おおかた、母親からの「迎えに来い」コールだろう。
「ま、いいか。」
 受話器を取った時、俺は一つ、心に決めた事がある。
 すぐ迎えに行こう。そして・・・帰ってきたリュースを、この部屋で抱きしめてやろう。
 俺の気持ちが通じるまで。


               # # #


 そのころ元帥は、
「あれ〜?話し中だよ。」
 と言って受話器を置いた。
「珍しくゼリオがこっちに来たから、リュースと話させようと思ったのにねぇ〜後でもっ
 かい電話しようか?」
「いえ、次の機会を待ちます。」
 青い髪の少女・・・ゼリオは、静かに微笑んだ。
「また・・・会えるような気がしますから・・・」



                               第十話 END



次回予告・リュース
 ご主人さまの居る学校は、明日から冬休みに入るそうです。だから、これからはご主人
 さまといーっぱい一緒にいられるんですよ。色んな事を教えてもらって、色んなお話を
 して、それからそれから・・・えへへ、とっても楽しみですぅ。
 次回、メカ耳少女の居る風景『トゥ・メタルハート』
 今日は何だか、特別な日になりそうです・・・



NEXT

SS TOP

BACK

。日は何だか、特別な日になりそうです・・・
NEXT

SS TOP

BACK